木造伝統構法 耐震改修のポイント
寺子屋「力石」の耐震改修を実施した木造伝統構法彦根研究会(座長 鈴木 有 名誉教授)は、地震に粘り強く耐える伝統民家の特徴を最大限に引き出す耐震改修の方法を、次の3つの基本方針と5つの指針にまとめました。
リポート by E,H
○3つの基本方針
1 、安全・安心に、そして日々の暮らしが豊かになるように改修する
2 、伝統の意匠を受け継ぎ、歴史ある町並みと調和するように改修する
3 、木造伝統構法が持つ、しなやかな粘り強さを活かして改修する
○5つの具体的な改修指針
1 、年月が経ち劣化した構造を元に戻すために、柱や梁が沈んだり傾いたりしているところを直し、腐った箇所を補修する。
2 、構造全体で地震へ有効に対処できるように、必要なところに、柱や梁などを加えて補整する。
3 、激しい揺れをやり過ごせるように、柱や土台は基礎に固定せず、礎石の上に載せるだけにして、大事な柱の足元を互いに横材(足固め)でつなぐ。
4 、揺れを抑えて耐力を高めるために、四隅に、そして重要な柱のそばに有効な壁などを設ける。
5 、ひずみを受け入れ壊れながら、地震のエネルギーを吸収できるように土壁・荒壁パネル・面格子などを選び、斜め材(筋交い)は使わない。
寺子屋「力石」の耐震性の診断
寺子屋「力石」は、築150年以上と推定される古民家で、いわゆる「町家」形式です。町家は、農家や武家屋敷とは異なる特徴があり、通りに面した「間口」が狭く奥に細長い家屋で、「通りニワ」とよばれる通路が間口から奧まで通り、それに面して各部屋が1列に並んで配置されているなどの特徴があります。

9月29日(土)、実際に床板を取り除き、耐震性の診断、確認を行ったところ、次のような課題が明確になりました。
1、 町家特有の細長い家の形状から、両隣との間には壁があるが、間口方向には壁が少なく柱だけが立っている。壁はゆれに抵抗する要素として大変重要であるが、それが間口方向に少ないため、耐震性が低くなっている。
2 、床下で柱と柱をつなぐ「つなぎ材」が少なく、ゆれに対して柱の足元がばらばらになりやすい。
3 、伝統構法でも一般の民家の場合は、柱と柱の間に太い梁をまわし、梁と天井との間に小さな土壁を入れてゆれに抵抗しているが、力石は天井が低く、小さな土壁を入れていない。
4 、木造の建物は定期的に点検し手入れをすることにより長寿命を発揮するが、手入れがされていないことにより、柱の下部が地盤からの水分を吸って腐り、建物を支える能力を失っている。

○力石の改修方針
以上の問題点に対して、つぎのような改修方針を立てました。
1、柱の下部の腐りを取り除き、新しい材などで補強する。
2、床下で柱と柱の間に太い横材を入れてつなぎ、柱の足元を固める。
3、可能な場所を選んで、新しく壁を入れる。入れるポイントは、
①建物を支える重要な柱の横に壁を入れる。
②壁の配置は、建物や部屋の四隅におき、L字型に固める。
③壁でふさぐと支障のでる場所は、木の格子などを使う。
こうして、伝統構法が本来持っている揺れに対する粘りと柔軟に受け流す能力を向上させます。


耐震改修前の内部 耐震改修後の内部