大地震にも耐える伝統民家の改修
耐震改修の実際
それでは、改修方針に基づき行われた具体的な施工事例を見ていきましょう。改修は、西澤工務店のご協力を得て、できるだけ市民や学生が参加し、実例で学びながら行うワークショップ形式をとりました。
リポート By E,H
1,柱の根継ぎと新しい柱の追加
建物を支える柱の根元が腐っています。
これは、壁土が経年変化により落ちて柱の周りに堆積し、土壌から水分を吸って柱を腐らせたものです。柱が床下であること、真壁の壁面をパネルで覆っていたため土壁の崩れが発見されず放置されたことに主な原因があります。伝統構法は合理的にメンテナンスができる仕組みになっていたのですが、それが継承されなくなっています。
柱の下部全体が腐った柱は、建物を支える力がないため、腐った部分を取り除き、健全な部分にまで新しい土台をつくり、乗せます。石と異なり土台のコンクリートは水を吸収して木を腐らせることがあるため、コンクリートと柱の間に銅板を挟んでいます。銅がさびて発生するイオンが腐食を防いでくれます。
一方、断面積の半分ほどが腐ってしまった柱は、腐った部分を切りとり、固い「かし」の木で補強しました。
さらに、力石は建具店が営まれていた時期があり、建築当初にはあった柱が切除されている箇所がありました。このため、構造的な歪み、変形が大きく、耐震性にも問題があるため、本来の場所に柱を追加しました。
2,足固め
力石には重要な柱と柱を床下で結び、揺れに対して柱がばらばらに動かないようにする「つなぎ材」が不足していました。このため、太い横材をいれて柱をつなぎ足元を固めました。
柱と横材をつなぐのには「ヨコセン」、「ハナセン」を使い、柔軟性を確保しながらはずれないようしっかりと固める伝統的な技法を用いました。
さらに金具とボルトで連結し、2重の安全対策を講じました。この様子を現在も見られるよう、床にアクリル板がはめ込まれています。
3、部屋の四隅を固める
通りニワと部屋の一部に重要な柱に対してL字型に壁を配置すると耐震性は向上しますが、圧迫感がうまれます。
この部分は、小さな壁と障子を用いてデザイン的に圧迫感がなく採光、通風が可能な工夫をしました。全面を壁にすることと比べると劣りますが、それでも大幅な耐震性の向上が図れます。
4,荒壁パネルと木格子
重要な柱の横に壁を入れるのですが、伝統的な土壁は多くの手間と時間がかかります。そこで、土壁とほぼ同じ機能をもつ荒壁パネルを木枠にビス止めしました。
土壁は、地震の揺れに対して当初は抵抗しますが、ゆれが大きくなると自ら壊れてエネルギーを吸収し、軸組みに伝わるゆれを軽減する優れた機能を持っています。
荒壁パネルは、格子に組んだ杉材に壁をぬってパネル化しており、ゆれに対しては、まずビスが抜ける、パネルが少しづつ壊れることでエネルギーを吸収し、柱や梁などの軸組みへの負担をへらすことができます。
簡単に取り付けられ交換も容易な荒壁パネルですが、土壁と同じく光や風をさえぎってしまうので、暗くなったり風通しが悪くなります。
そこで、比較的太い木で格子を組んだものを壁のかわりに重要な柱の横に設置します。
木の格子は、当初はゆれに抵抗しますが、揺れが大きくなると組まれた木材がひずんでめり込み壊れ始めます。これにより土壁と同じく、ゆれのエネルギーを吸収します。
外観もおしゃれです。 現在、寺子屋力石では、南国カフェ「ルアム」が営業しています。木の格子が実に美しくインテリアとして取り入れられていますので、ぜひ、訪れてみてください。
5,リフォームと耐震改修を重ねる
こうして10月31日に、力石の耐震工事は完成しました。
この耐震改修はデザイン的にも配慮されており、大変美しい空間ができあがりました。
いつくるかわからない地震に対する耐震補強は容易に進みませんが、明日からの暮らしを利便にし、美しい空間をつくるリフォームと耐震改修が重なっていれば、誰もが大きなメリットを感じます。
今回の改修は、こうした点を配慮して取り組みやすい改修の実例を提供することができました。(おわり)
完成式のようすとテープカット