【彦根物語44】
「ベロタクシー ~街の風景になじむ移動手段~」
by NPOリポート
齋藤 毅
(NPO法人五環生活
自転車タクシー事業部リーダー)
ベロタクシーは、名前の通り「タクシー」ですが皆さんがご想像されるような、目的地に急いでいる時に便利なタクシーではありません。ベロタクシーはとにかく遅いのです。
「自分で自転車を漕いだ方が早いから、やめとくわ」「走った方が早いから、やめとくわ」といった理由で乗車を断られる場合があるという、不便な?乗り物です。
実際ベロタクシーをご覧になったことがある方は、ベロタクシーが夕食のお買いものに出かけるお母さんが乗る、自転車に抜かされることも、ベロタクシーを走って追いかけてくる小学生にも抜かされてしまう事を申しましても驚かれないと思いますが、まだ実際にベロタクシーをご覧になられていない方に、そんなお話しをしますと、「そんなに遅いなら、ベロタクシーは交通手段としてダメじゃない?」とご指摘を受けそうです。
確かに交通手段の魅力=速さとして考えた場合、自転車タクシーであるベロタクシーは不便です。しかし、この「遅さ」がベロタクシーの持つ魅力であると言えます。ベロタクシーは、先端技術の「ハイテク」と人力の「ローテク」の良いところを結びつけることにより生まれた「ちょっとだけ不便だけど愉しい」スローテクの乗り物です。ベロタクシーが街の風景になじむ移動手段で彦根という町に受け入れられ、既に市内県内県外を問わずファンやリピーターのお客様が生まれているのは、人間本来が「心地よい」と感じるスピードに合った「スロー」な乗り物だからではないでしょうか。
市内の児童へクリスマスケーキの配達をしました
ベロタクシーは大変注目される乗り物です
子どもにもとても人気があります
【キーワード】
ユニーク
スローテク
地域
心地よさ
恩送り
それぞれの彦根物語44 彦根城築城400年祭特集 by A.H氏 リポート
齋藤 毅 さん
NPO法人 五環生活
自転車タクシー事業部
ベロタクシーひこね代表
滋賀県立大学大学院生
ベロ(VELO)とはラテン語で「自転車」。今回は、400年祭に彦根に登場した卵形のユニークな「ベロタクシー(自転車タクシー)」の不思議を、齋藤さんが解き明かしてくれました。齋藤さんは22歳の大学院生。北海道出身なのに寒いのが嫌いです。
《タクシードライバーがよく受ける質問・ベスト3》
第3位:ベロタクシーは彦根以外でも走っている? →YES、彦根の他に全国21都市で走行中。
第2位:どうやって動いているの? →自転車と同じでペダルを漕いで進みます。坂道は電動アシストモーターを併用します。平均時速11km、普通の自転車より遅いです。
第1位 ベロタクシーを漕いだら痩せる?? →YES、きちんと続けられて、収入が得られ、お客さんと楽しい時間が過ごせる一石三鳥ベロダイエット。ただし、地域の方やお客さんから「差し入れ」が多いので食べ過ぎに注意。
《どんな仕組みで運営しているの?》
ベロタクシー彦根とドライバーは業務委託契約を結んでいます。ドライバーは、タクシーをレンタルして個人営業します。運賃収入はすべてドライバーの収入です。一方、ベロタクシー彦根は、広告を車体に表示して広告料をいただき運営します。現在3台ありますが、初期投資には彦根市、滋賀県、市民募金の支援を受けています。
《なぜ、ベロタクシーを走らせるの?》
スロー・テクであること。「ちょっとだけ不便」だけど、愉しいのです。また、彦根城に上がれない人々にも喜んでもらえ、観光の動線の役割を果たすとともに、地域の人にとっては街の魅力を再発見することにつながっています。狭い道でも入れるので、障害者や高齢者の利用につながっています。
《NPO法人「五環生活」とは??》
2006年7月13日設立、「五感+環境+暮らし」をコンセプトにし、知識ではなく身体からはじめる、五感と環境をつないだ生活を社会に定着することをめざしています。ベロタクシー彦根は「五感生活」の一事業です。このため、収益事業だけでなく、ボランティアとして学校やイベントなどにも参加します。ユニークなものでは、結婚式場で新郎新婦の登場に使われたり、クリスマスケーキの配達に使われたり。 走る姿を見るだけで街の雰囲気が変わりますよね。 ご予約は090-6552-2215へどうぞ。
《ズーニー(ZOONY)とは?》
ここからは、大学院で環境「地域経営」を専攻する齋藤さんらしい面を紹介します。
齋藤さん達の使命は、「ベロタクシーを彦根に定着させ、スローテクの面白さを社会に伝えていく」こと、そのために行動する際の指針を、「もっとゆっくり、もっと愉しく」、キーワードは、「安全に、礼儀正しく、ショーのように愉しく、ズーニーに。」としています。
ズーニー(ZOONY)とは造語で、否定の先を見ること。これまでの活動で「~せずに」「~しない。」と否定で終わっていたものを、否定の先に進み出ること。英語ではオルタナティブ(代替案)。「~せず(Zoony)に、・・・する。」の“・・・”のところに新しい可能性が開ける。それをキーワードにしようというのです。たとえば、使い捨てのペットボトルを否定するだけでなく、ペットボトルを買わ「ずに」(Zoony)水筒を持ち歩く、という発想です。マイ箸、マイカップ、自転車など「ずに(Zoony)」から見えてくる愉しさがいろいろあるんですね。Zoonyを口癖にすると結構おもしろい。
《クラッシュボールとペイフォーワード》
400年祭は、たくさんのお客様を集めて、ベロタクシーや屋形船などのコミュニティ・ビジネスを成功させる追い風になりました。しかし、400年祭が終わった今後は、純粋にお客様の評価、ビジネスの力が問われます。新しいローカルモデルの創造など多くの問題意識をもってベロタクシーの運営に取り組んでいる齋藤さん。
でも、意外に明るいのです。その秘訣はどうやらこの「クラッシュボール」にあるようです。ドライバーのミーティングで、このボールを受け取った人は「24時間以内にあった良いこと、新しいことを話してください」と頼まれて、とにかく話します。そして次の人にボールを渡します。このボールは柔らかく意外に重い独特の感触ですが、そうして話して回すと短期間に組織を前向きに変える効果があるといいます。
それから「ペイ フォーワード」(Pay it Forward)。人から受けた厚意(親切)を相手に返すのではなく、「次に渡す」こと。日本では「恩送り」と言うそうで、ベロタクシーのドライバーがお客様に親切に接し、困っていることをできる範囲で助ける。そして、ドライバーが「恩送り」の話をすれば、その親切はパーッと広がる。お互いに親切を回す訳です。
現実の社会で生きていると夢物語のように聞こえますが、でも、いい話だと思います。
とにかく一度、ベロに乗ってみましょう。
次回は5月17日(土) 10:30~12:00
「彦根に素晴らしいものがありました -彦根まちなか博物館-」と題して、
彦根商工会議所の安達 昇さん がお話し下さいます。