LLP(有限責任事業組合)ひこね街の駅 武櫓倶

それぞれの彦根物語61『「街の駅事業」の継続性について』

「街の駅事業」の継続性について

               姉崎 美奈 滋賀大学大学院経済学研究科経済学専攻2回生
                                       リポート by E・Hd0087325_1061.jpg 
 


今回のテーマは、私も含めて花しょうぶ通りに関心をもつ者には大変気になった。
 「寺子屋力石」と戦国ショップ「戦国丸」の事業継続について、滋賀大学の院生で、彦根景観フォーラムの学生会員でもある姉崎さんが論文発表をする。もし、継続は困難と言われたらどうしよう。
そんな不安と期待が入り混じった気持ちで参加した。


「街の駅」の立地条件
 結論から言えば、姉崎さんの研究は「街の駅」事業が続いてきた要因やメカニズムの研究であり、今後の事業の継続性の評価ではなかった。

 中心市街地商店街の活性化は全国各地で取り組まれてきたが、成功事例は多くない。
彦根の事例でみると、夢京橋キャッスルロードや四番町スクエアのように、通り全体をすべて造り替えて新しいインフラで客を呼び込むまちづくりは成功している。ただ、これには10年以上の長い歳月と数十億円の莫大な資金投下が行われていて、今後の経済状況を考えると、このようなまちづくりはこれからは困難といわざるを得ない。

 一方、花しょうぶ通りは、中心部から離れていて交通の便も悪く、道路も狭くて駐車場の確保もままならない商店街で、シャッターが目立つ銀座商店街や中央商店街と比べても明らかに立地条件が悪い。そんな商店街の空店舗活用事業として2005年に始まった「街の駅事業」が現在も継続していること自体が不思議であり、(事実、寺子屋力石では、街の駅事業以前に駄菓子屋、レコード店の経営が破綻している。)その原因を分析しようと思ったのが彼女の動機だった。

「街の駅」はなぜつぶれないのか
 姉崎さんは、「街の駅」の変遷を丁寧に追いかけて、そこにいくつかのメカニズムが働いているのを見いだし、事業継続につながる仮説として提示した。それは大学院の修士論文らしく学説に基づく難しい言葉で表現されていて、そのまま紹介するのはとても無理だ。
 そこで、超簡単に普通の言葉で表現することをお許し願いたい。
 要するに、普通なら潰れているはずの「街の駅」事業が潰れずに続いているのは、第1に、この事業が普通ではなく、その上にそれを運営する人たちも普通ではなかったこと、第2に、そこに集うお客さんも変わった人たちであったということだ。(身もふたもない言い方で申し訳ない)
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事業の特徴と人や組織の特徴
 第1の点では、この事業は、2005年10月にNPO彦根景観フォーラム主催の「商人塾」で始まっている。この塾では、商店街が生き残るには、どこでも買える物販から此処でなくては得られない「対個人サービス」への転換が必須だと商店街の人たちもNPO・大学関係者も認識した。
 そして、「それぞれの彦根物語」、地元大学まちなか研究室、花しょうぶ学舎、作家による趣味の教室、パソコン教室、手作り紙甲冑教室などが次々と開催され、寺子屋力石を舞台にいろいろな趣味や嗜好を持った人が情報を共有していった。そうした中で、偶然に訪れた人によって描かれたキャラクター「しまさこにゃん」に注目し、これをビジネスにするため有限事業責任組合(LLP)ひこね街の駅が結成されてゆく。

 この過程は、寺子屋力石という「場」で、人と人との間で様々な情報が共有され、次々と知識の結合を生み出し、コンテンツビジネスへ発展していったと見ることができる。特に、商店街と大学、NPO、マスコミ、市民などの共感を伴った話し合いが、暗黙知を形式知に転換し、形式知を暗黙知に転換するナレッジマネジメントのプロセスとなり、事業を育成するメカニズムとして働いた。

 さらに、結成された「LLPひこね街の駅」は、商店街の有志と大学関係者、NPOの有志、その他の様々な職業の有志がメンバーになっており、商店街メンバーのイベント開催などで培ってきた一体感と企画力、実践力と、大学やNPOのもつ科学的な分析力や専門知識、直感力などが組み合わさって、事業計画が立てられ、マネジメントされた。
 これは、姉崎さんによると、ミンツバーグのマネジメントモデルで示されている「クラフト」「サイエンス」「アート」の結合に相当するという。(クラフトが商店街、サイエンス、アートが大学・NPOに対応する)
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あたらしいもの好き達の役割
 第2のお客さんの視点からみると、どのような商品にもライフサイクルがあり、最初はごく少数の「あたらしもの好き」(イノベーター)が顧客となり、ついで「あたらしもの好き」を見ておもしろいと採用する初期採用者(オピニオン・リーダー)、さらに初期採用者を見て自分も採用する早期追随者(アーリー・マジョリティ)が生まれる。このイノベーターは全体の2.5%であり、オピニオンリーダーは13.5%、合わせて16%の普及ラインを超えると、あとは次々に普及するが、16%を超えないと失速してしまうという理論がある。

 街の駅事業のお客を分析すると、このイノベーターが重要な役割を果たしていると姉崎さんはいう。イノベーターは、人の先頭に立って新しいものを創ろうとする人であり、それらと新しいものに関心がつよい大学人やメディア関係者、歴史マニアが顧客となって事業を引っ張っていく現象がみられたという。ここでは事業の運営主体と顧客が一体化して商品やサービスの開発が行われ、1つが完成すると次々に新しい商品・新サービスの開発へと展開していくメカニズムが働き、事業が継続してきたという。(これを「主客同一発達仮説」と姉崎さんはいう。)


d0087325_19859.jpg「地域経営」につながる挑戦的な研究
 大変むずかしい理論を適用した事例研究で、本当に検証できているのか発表からだけでは伺い知ることができない。また、一例だけの研究では不十分と言われるかもしれない。
 しかし、まちづくりの本質に新しい光を当てた挑戦的な研究であることは確かだ。
 また、私たちが街の駅の活動を客観的に振り返る重要な視点を示してくれたことに、心から感謝したい。

 最近、「地域経営」という言葉が盛んに用いられている。経営学でよく知られているドラッカーは、GMなどの企業経営を観察して「マネジメント」の概念を提示した。その後、大学や病院、教会などの非営利組織(NPO)の経営についても観察し「非営利組織のマネジメント」という著作を1990年に発刊している。
 彼が、もし生きていて、多様な主体を取り込んだ「地域経営」という言葉を聞いたら、どのような見解を示しただろうかとふと思った。(By E.H) 
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by machinoeki | 2009-05-08 22:35 | 談話室「それぞれの彦根物語」
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